村田沙耶香氏講演会 in Sofia 

2026年4月23日、日本の現代人気作家を代表する村田沙耶香氏がソフィア市を訪れ、NDKのCity Stageにて講演会を開いた。このイベントは、国立文化基金、ソフィア市、文化省の財政支援、文学翻訳会館、イヴァン・ヴァゾフ国立劇場、在ブルガリア日本国大使館のなどサポート、「コリブリ」出版社の特別支援を受けて無料で開催された。会場には500人を超える日本文学を愛する人々が集まり、ソフィア大学の在校生や卒業生、教職員や図書館関係者などの顔も多かった。司会者は文学評論家のダリル・テネブ教授、通釈者はアルベナ・トドロヴァ氏であった。 

最初に歓迎の言葉として、在ブルガリア大使館の隅大使より挨拶が行われた。ブルガリア語で挨拶をされ、会場からは温かい拍手が送られた。 

 

次に司会者より村田氏の数々の受賞経験などが紹介された。村田氏は自己紹介の中で、自身の作品がしばしばジョージ・オーウェルの”1984”と比較されることに関して「私は”個性を大切に伸ばす”と言われ始めた時期に育ちました。しかしそれは大人たちが美しいと思う個性であって、正しくないとして排除される個性も存在するのではと感じていました」と話し始めた。 

 

続いてダリル氏が「コンビニ人間」の「人間とは」という部分に言及すると、彼女は「幼い頃見た”妖怪人間ベム”というアニメの中で”早く人間になりたい”とうセリフが何度も登場します。実は私自身もどこかでそう感じていた部分がありました。社会が求める”普通の人”とは何なのか、本作ではその葛藤が見えるように思います。しかし逆に私は「人間」を目指すことをやめて、自分の中にある社会に適応していない”新しい動物”を探している部分もあります。」と述べた。主人公が何かに抵抗しようとせず、必要以上に同化しようとしているように描いていることも、「逆にそれが、かすかな抵抗なのかもしれません」と述べた。 

続いて「新作”世界99”の世界はディストピアかユートピアか」という質問に対しては「それは日本でもよく聞かれます」と笑いながらも「これはもう、すでに起こっている世界でもあります」とし、「私は、人間がすでにしでかしてしまったものを剥がして本性が見たい、という欲望が強いかもしれません。現在の自分の世界を粉々にして、破壊したいという欲望が強いんです」と語った。 

作品の中に度々ショッキングな表現やシーンが登場することについては「書いてはいけないという発想がありませんでした」と笑った。そして自分の作品作りは「登場人物たちと設定を水槽の中に入れると、勝手に動き出す」と言い「私はその中で起こったことを必死に書き写しているだけ」と述べた。「その過程でどんなにおぞましい、自分が粉々になってしまいそうなものが表れても、その通りに書くようにしています。”小説を裏切らない”ようにしています。」そして「むしろそれらが自分を粉々にしてくれることを願っているんです」と述べた。 

 

続いて「異邦人」についてもディストピアかという話題になると「私はそうは思わない」と言いながらも、ある友人が”小説は楽譜であり、読者がそれを弾いて完成する”と言っていたことから、好きに感じて欲しいと述べた。ただこのような作品を書くと「自分が見たことのない地下に埋もれていたものを、掘り起こしてみたような心地よさ、安心感があります」と述べた。 

 

最後に、参加者からの質疑応答が行われた。 

①「一番好きな作家は?」 ━━ 今は松浦理英子さん。「犬身(けんしん)」という、主人公が犬になって生きていく作品があるのだけれど、そういう社会になじめない「アウトサイダー」な主人公に救われてきました。他にも「人間失格」とか。 

②「一番好きな作家は?」 ━━ 「違和感」かな。ネガティブに取られがちな言葉ですが、自分の心のセンサーがかすかに教えてくれる違和感の中に、自分の真実の叫び、本当の願いが眠っていると思います。みなさん、自分の違和感を大事に抱いていきましょう。 

 

盛大な拍手によって講演は終わった。 

多くの来場者がそれぞれお気に入りの作品を持参しており、その後のサイン会は1時間以上並ぶ列ができていた。興奮冷めやらぬファンたちは、ブルガリアでこのような機会が訪れたことに感謝し、イベント終了後も大満足で熱く語り合っていた。